一人働き方改革。不自由さが産んだ小さな小さなイノベーション

私は24歳で結婚し、27歳で出産しました。
今から10年以上前の話しですが、その頃としてもやや早めの展開だったと思います。

子供が生まれる前と後と、別人になったかのように働き方が変わりました。
変えざるを得なかったのです。
会社にとってはたくさんいる社員の一人。
子供にとってはたった一人の母親。
どちらに重きを置くことになるかは、明白です。

でも、何一つ諦めたくなかった。
子供を産み育てることも、仕事を通して社会と繋がり、なんらかの貢献をすることで糧を得ることも。
両立とかなんとか言う前に、とにかく何も諦めたくなかったんです。

育休復帰からの私がチャレンジした「一人働き方改革」について書いてみます。

赤ちゃんの足

外食産業にいた私が、育休明けに店長としての復帰を選んだわけ

社会に出て5年目。当時は外食産業におり、転職して二社目に入りまだ半年ほどのこと。
前職で同じ業界を経験していたため、最初からカフェの店長として配属されていました。
仕事が面白い時期に、唐突に妊娠。
特に狙っていたわけではなかったので、正直、戸惑いも大きかったです。

会社自体は一部上場しており、育休・産休の制度も整っていました。
ただし、妊娠した社員は、慣例にしたがって本社勤務になるのが通常でした。

本社勤務と店舗勤務では、異なったキャリアパス制度になっており、本社勤務になると、管理職ではなくなります。
店長としてお店に関することならほとんど権限を持っていたので、本社勤務にまったく魅力を感じず……。

誤解を恐れずに書くと、本社にはおじさん(失礼)たちがはびこっている状態。
女性管理職など皆無。
店舗時代に長時間労働を誇っていた方々の巣窟のため、当然のごとく長時間労働をみんなでする、そんな環境。
妊娠・出産した女性社員は、肩身狭く、時短勤務か残業をせず定時での退勤をするのです。
たまに会議やらなんやらで本社に赴くと、本社勤務になったワーママ社員から切ない話を聞いたものでした。

そんなわけで、育休明け、事業部初のワーママ店長としての復帰の道を選びました。
時短も取らずフルタイムで現場復帰。
おかげで、自宅最寄り店舗への配属という最小限のサポートは得られました。
社員は店長の私1人という、優しくない体制でしたが。

ワーママで店長は厳しいだろう。大方の反応はそんな感じです。
でも、実際はそんなことありませんでした。
権限が大きく、職場で一番上なわけですからある意味思い通りにできるのです。
シフト勤務ですが、そのシフトを好きにできることは、ワーママにはかなりのメリットです。

子供は保育園に入れるとしても、小さいうちは発熱などで預けられない日も多い。
予防接種や健康診断も頻繁にあり、平日にこなさなければならないタスクが細かくある。

いちいち平日に有給を取っていたら、あっという間になくなってしまいます。
夫は土日休みですから、私が平日休みを取れば、一週間のうちかなりの日数をカバーできるのです。

男の子

子供を産むまでは、長時間労働することがありました。
飲食店あるあるの人手不足。
店舗って一つの会社と同じですから、事務作業も山ほど……。
大変であればあるほど、誰かに教えたり頼るより、自分でやった方が早い!という負のスパイラルに陥っていました。

しかし、子供にとって唯一の母親となった私は、たくさんいる社員の中の1人の私より、重い存在となりました。
復帰後は権限をフルに使い、一人働き方改革を行うことに!

働き方改革、いかに自分不在で回るお店を作るか

お店に配属されて、すぐにしたこと。
それは、年間予算を隅々まで把握し、使える資本を投下することです。
お店を任されると、ついついコストを削ることと売上をあげることにフォーカスしてしまいがちですが、順番としては投資が先。

まずは、何と言っても人員確保が必要です。
これができていないと、物理的に休めません。

50人程いたアルバイトさんは、ほとんどが近隣の大学生。
入学、卒業の入れ替わり、試験や帰省時人員が減ることを見越しての採用計画を立てます。
人員確保の際、お金かけて募集するより効果があるのが「友達連れてきて」の声かけ。
既存アルバイトが一緒に働きたいと連れてくる子は、大抵良い子です。
海のものとも山のものともわからない情報誌やウェブ経由の人材より、よほどスムーズに稼働しました。
しかもコストゼロ!

並行して人の確保のためにも、そして余分な人件費のカットのためにも、予算ギリギリまで備品を揃えていきます。
これ、意外と他の店長がやらないことです。
外食でありがちなのが、壊れたり割れたりした備品を、コストカットのため修理・補充を先延ばしにすること。
これをやると、いつも備品が足りなくてバタバタ洗って戻して使うから人手がかかるし、お客様もお待たせする。
かけるべきところでコストを削っても、良いことはないのです。

カフェタイム

バックヤードを整理して、在庫管理を容易にすると棚卸しや発注が楽になります。
販売データを日々きっちりアルバイトさんにも開示し、いつ何が売れているのかを店全体で共有しました。
これでアルバイトさんにも発注業務ができるようになります。
ついでに、バックヤードが綺麗だと休憩時にくつろげますし、結果としてアルバイトさんの意識も高まるという効果もあります。

アルバイトリーダーを複数人立て、チーム制を敷き、教育も権限委譲します。
アルバイトさんはいつでも入店しているわけではないため、教育についてはすべて記録をつけることで進捗を共有。
リーダーになるためのキャリアアップのステップも明確にしました。

やる気があり、結果を出している人はどんどん昇給。
スーパーバイザーには怒られましたが、時給を半期に30〜50円ずつ上げていっても、大学生ばかりなのでいずれ卒業してしまうので限度があります。
どれだけ昇給しても、店長である私の人件費とは比較しようもないくらいのコストです。
自分が残業する方がコスト高です。
この辺りを数字で説明することで、会社には無理やり納得してもらいました。

もちろんその分、作業を見直して無駄な人件費は削減します。
そもそもいらない作業や、同時にできる作業はないか?
朝している仕事を、比較的売上の下がる夜に動かす。
物の配置を見直す。
そんなことを、アルバイトさんを巻き込んで一緒にやっていきます。

結果、アルバイトさんもお店の経営に少し関わっているような感覚になり、とても協力的になります。
発注、教育など権限移譲することでやる気が出て、面白がっていろんなアイデアを出してくれたり、シフトにも積極的に入ってくれたり。
私がいなくても回るお店づくりを進めました。
おかげで育休明けの私は、配属2ヶ月目から公休は完全消化、残業ゼロ!

猫のラテアート

不自由さが産んだ小さなイノベーションが私を変えてくれた

子供が生まれたことで、私はとても不自由になりました。
自分の体調が良くても子供の体調が悪ければ、スケジュールを変更せざるを得ません。
ご飯を作って食べさせないといけないし、家や服を清潔に保って健康に成長するように気を配らないといけません。

不自由だったから、それまでと同じ感覚では働けなくなりました。
私でなければわからないことは極力省かなければ、いざという時仕事を抜けられません。
不自由になったからこそ、働き方を改革せざるを得ませんでした。
それは、私にとって小さな小さなイノベーション。

本社のおじさまたちは不思議でならなかったようで、よくお店に視察にいらっしゃいました。
全社員向けにどうやって運営しているのか、プレゼンさせられたこともあります。
そのうち慣れて、人がいるんだから他の店にヘルプ出せだの、二店舗統括しろだの言ってきましたけど。

改革は、そうしなければどうしようもない状況の人が権限を持てば、成せるものだと学びました。
権限を持っている人の意識が変わらないのであれば、退場願うのみ。
待てなければ、去るのみ。

思考停止する必要は、ありませんよね。

ポーンと突き抜ける感覚を味わった私は、その後転職したいわゆる大企業でも同じことを実行しました。
その話はまた、いつか。